事務所便り

令和5年9月号

厳格な運用が求められる変形労働時間制

 変形労働時間制を適用し、複数のシフトパターンにより労働させているケースがありますが、就業規則にすべてのシフトパターンが記載されていなかったとして変形労働時間制が無効とされた裁判例が出ています。以下では、変形労働時間制を運用する際の注意点をとり上げます。

■ 定めが必要な事項

例えば1ヶ月単位の変形労働時間制を導入し、就業規則に定める場合、以下の事項をすべて定める必要があります。
  ① 対象労働者の範囲
  ② 対象期間・起算日
  ③ 労働日・労働日ごとの労働時間

 ①の「対象労働者の範囲」は、変形労働時間制の対象となる労働者の範囲を明確に定める必要があります。②の「対象期間・起算日」は、例えば「毎月1日を起算日とし、1ヶ月を平均して1週間当たり40時間以内とする」のように、具体的に対象期間と起算日を定める必要があります。なお、対象期間は1ヶ月以内の期間であれば、2週間や4週間とすることも可能です。③の「労働日・労働日ごとの労働時間」は、シフト表や会社カレンダーなどで、②の対象期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要があります。シフト制労働者で月ごとにシフトを作成する場合は、全ての始業・終業時刻のパターンとその組み合わせの考え方、シフト表の作成手続・その周知方法等を定めておく必要があります。

■ 運用する際の注意点

 複数のシフトパターンがある場合、就業規則には、代表的なものだけを記載しているようなケースや、様々なパターンに関する記載があるものの実態とずれていたり、実態はさらに細かいシフトパターンがあったりするようなケースがあるでしょう。変形労働時間制が無効になった裁判例では、「原則として」と記載し、4つのシフトパターンを定めたのみで、すべてのシフトパターンを記載していなかったとして、労働基準法第32条2の「特定された週」または「特定された日」の要件を充足するものではないことから、変形労働時間制は無効であると裁判所が判断しました。ひとつの裁判例であるものの、会社は、就業規則にすべてのシフトパターンの記載があるかを確認し、記載がなければ追加し、また、今後において、記載されたシフトパターン以外の時間で勤務しないように管理していくことが求められます。

 変形労働時間制は、特定した労働日、労働日ごとの労働時間を会社の都合で変更することはできないとされています。会社の都合で変更するような誤った運用もみられることから、適正に運用できているのかについても確認し、問題があれば改善しましょう。


12月よりアルコール検知器によるアルコールチェックが義務化されます

■ 12月1日から義務化決定

 現在、令和4年4月施行の道路交通法の改正により、「白ナンバー」車(自家用車)を5台以上、または定員11人以上の車を1台以上保有している事業者は、安全運転管理者による運転の前後に目視による酒気帯びの確認とその記録の1年間の保管が義務付けられています。しかし、12月1日からは、アルコール検知器によるアルコールチェックが義務化されることが決定しました。
 検知器によるアルコールチェックの義務化は、当初は令和4年10月の施行を予定していましたが、世界的な半導体不足の影響でアルコール検知器の供給が間に合わないとして延期となっていました。その後、アルコール検知器の生産・供給が可能な状況となり、パブリックコメントを募集し施行日が決定しました。

■ アルコールチェックの業務

 アルコール検知器を用いたアルコールチェックの業務は以下のとおりです。
  ① 運転者の酒気帯びの有無の確認を、アルコール検知器{※}を用いて行うこと
  ② アルコール検知器を常時有効に保持すること。
 ※アルコール検知器については、酒気帯びの有無を音、色、数値等により確認できるものであれば足り、特段の性能上の要件は問わないものとされています。
 また、運転業務前後に、安全運転管理者による目視での確認(対面で顔色、呼吸(アルコールの匂い)等)と記録が必要となります。

■ 使用者が責任を問われることも

 従業員が酒気帯び運転や飲酒運転で事故を起こした場合、使用者に刑事罰が科される場合がありますし、企業イメージにも大きな影響を与えることになります。滞りなくアルコールチェックが実施できるように体制を整えておきましょう。
【警視庁「アルコール検知器使用義務化規定の適用について」】
    https://www.npa.go.jp/news/release/2023/02_sankou.pdf
【警察庁ポスター、リーフレット】
    https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/img/ankanleaflet.pdf

弊所よりひと言

 2023年度の都道府県別の最低賃金額が8月18日にすべて確定しました。各都道府県で39~47円引き上げられ、全国の加重平均額は前年比43円増の1004円となります。物価高を背景に初めて1000円を超え、引き上げ額も過去最高となりました。新しい最低賃金は10月1日以降、順次適用されますので、10月以降の給与計算の際は、最低賃金額に満たない従業員がいないかチェックをしたうえで、給与計算を実施することが必要です。
 なお、最低賃金は所属する店舗、事務所及び工場の都道府県の最低賃金額が適用されます。例えば、大阪本社で別に東京支社がある会社では、東京支社に所属する社員は、東京の最低賃金が適用されます。また、テレワークを実施する社員は自宅等テレワークを行う場所の如何に関わらず、社員が所属する事務所等がある都道府県の最低賃金が適用されますので、適切な運用がされますよう改めて確認をしましょう。

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