事務所便り

令和5年8月号

こども未来戦略方針から見る 今後の社会保険制度の変更

 2023年6月13日、大きな話題となっていた「こども未来戦略方針」(以下、「方針」という)が閣議決定され、正式な内容が公表されました。今後、この方針に沿った法改正等が進められることになりますが、今回は方針の中で触れられている社会保険に関連した内容を確認します。

■ 社会保険2つの壁

従業員が加入する社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、加入基準が定められており、その基準を満たすことで、従業員自身が被保険者となり、会社とともに保険料を負担します。この保険料負担に絡み、2つの壁が存在しています。

 ① 106万円の壁
 厚生年金保険の被保険者数101人以上の企業(特定適用事業所)では、以下の3つの基準をすべて満たすことで、社会保険に加入し、保険料を負担することになっています。
    1. 週の所定労働時間が20 時間以上
    2. 所定内賃金が月額 8.8 万円以上
    3. 学生でない
 106万円とは、月額8.8万円を年間に換算した額であり、この壁を超える(年収が106 万円以上となる)ことで、保険料の負担が発生することを示しています。

 ② 130万円の壁
 健康保険の被扶養者および国民年金の第3 号被保険者として認定される要件の1つに、「年収が130 万円未満であること」があります。被扶養者(第3号被保険者)は、健康保険料や国民年金保険料を直接負担する必要がありません。この壁を超える(年収が130万円以上となる)ことで、国民健康保険の被保険者や、国民年金の第1 号被保険者となり、保険料の負担が生じることを示しています。

■ 社会保険の適用拡大

 106万円・130万円の壁があることで、これらの年収以上とならないように労働時間や賃金額を抑制する従業員が一定数存在します。方針では、「いわゆる106万円・130万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに引き続き取り組む」としており、男女ともにキャリアを築き、男女ともに育児を行うこと等を促進しようとしています。

■ 雇用保険の適用拡大

 雇用保険は、週の所定労働時間が20 時間以 上であることが加入基準の一つとされており、加入し支給要件を満たすことで失業等給付や育児休業給付等を受給することができます。方針では、雇用保険の加入基準を拡大し、週の所定労働時間が20時間未満の従業員にも失業等給付や育児休業給付等を受給できるようにするとしています。なお、拡大する範囲は「制度に関わる者の手続や保険料負担も踏まえて設定する」としており、施行は2028年度までを目途としています。
 ここで取り上げた社会保険の壁の他に、所得税の壁も指摘されているところです。世帯として短期的に手取り収入が多くなる方法を探す傾向が強く見られますが、長期的なキャリア形成という観点から働き方を考えることも重要でしょう。

永年勤続表彰金の社会保険、労働保険および課税上の取扱い

■ 社会保険上の取扱い

 今年6月27日に、「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」に以下の問答が追加されました。
 Q .事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。
 A.永年勤続表彰金については、企業により様々な形態で支給されるため、その取扱いについては、名称等で判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件を全て満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として「報酬等」に該当しない。
 ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し、当該永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断すること。

 【永年勤続表彰金における判断要件】
  ① 表彰の目的
   企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合
   は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
  ② 表彰の基準
   勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
  ③ 支給の形態
   社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって表彰の間隔が概ね5年以上のもの。

■ 労働保険上の取扱い

 行政手引50502によると、「勤続年数に応じて支給される勤続褒賞金は、一般的には、賃金とは認められない。」とされています。

■ 課税上の取扱い

 国税庁のタックスアンサーNo.2591によると、創業記念で支給する記念品や永年にわたって勤務している人の表彰に当たって支給する記念品などは、一定の要件を満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。ただし、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。

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