事務所便り

R8年10月号

育児休業にまつわる「給付金併給」の実務対応

 今回は、実務で直面すると非常に迷いやすい「育児休業給付金」と「他の手当金」が重なった場合の取り扱いについて解説します。法律の建前と、実務上の落としどころを整理しました。

■ 育休中に病気やケガ!「傷病手当金」は併給できる?

 育児休業期間中に骨折をして勤務できるような状態ではなくなった場合、育児休業給付金と傷病手当金は併給(両方受給できる)のでしょうか。
 行政の通達でも、育児休業中であっても要件を満たせば傷病手当金が支給されることが明記されています。ただし、実務上は以下の「落とし穴」に注意が必要です。
 傷病手当金は「労務不能(仕事ができない)」が条件ですが、育児休業は「子の養育をしていること」が前提です。もし、病状が重く「育児すら全くできない状態」と判断された場合、育児休業の根本要件を満たさなくなります。結果として会社は育休を終了させざるを得ず、育児休業給付金がストップしてしまいます。

■ 第1子の育休中に第2子妊娠!「出産手当金」は併給できる?

 これもよくあるケースです。「第1子の育児休業給付金」と「第2子の出産手当金」は併給できるのでしょうか。
通常、第2子の「産前休業」に入ると、法律上、第1子の育児休業は強制終了します。育休が終わるため、育休給付金もストップし、出産手当金に切り替わります。
 しかし、産前休業(出産予定日前42日)は「労働者本人が請求して初めて発生する」というルールがあります。一方、健康保険の出産手当金は「休業の名称に関わらず、出産のために仕事を休んで無給であれば支給」されます。
 つまり、「本人があえて第2子の産前休業を会社に請求せず、第1子の育休を継続したまま出産手当金を申請する」という形をとれば、法的には育休中でありながら出産手当金の要件も満たすため、産前42日間に限りダブル受給が成立するのです。

■ 法的根拠

 ◎健康保険法(第103条・第108条等)
 出産手当金と「傷病手当金」や「会社から支払われる報酬」との調整規定は定められていますが、雇用保険の「育児休業給付金」と調整する規定はありません。

 ◎雇用保険法(第61条の7等)
 事業主から支払われる「賃金」との調整規定は定められていますが、健康保険の「出産手当金」と調整する規定はありません。

 このように、双方の法律に相互を排除・調整する条文がないため、法律上は両方の全額受給が認められます。なお、以下のような通達が出されています。
 ※厚生労働省の通達(平4.3.31保険発第39号・庁文発第1243号)
 「傷病手当金又は出産手当金の支給要件に該当すると認められる者については、その者が育児休業期間中であっても傷病手当金又は出産手当金が支給されるものであること。なお、健康保険法の規定による傷病手当金又は出産手当金が支給される場合であって、同一期間内に事業主から育児休業手当等で報酬と認められるものが支給されているときは、傷病手当金又は出産手当金の支給額について調整を図ること」

■ 企業としての実務ポイント

 ここまでの制度の仕組みを踏まえ、実際に該当する従業員から申し出があった場合、企業としてはどのように対応すべきでしょうか。労務トラブルを防ぐための実務上のポイントを整理します。

 ① 傷病手当金が絡むケース(育休中の病気・ケガ)
 まずは、従業員ご本人から「病気やケガの具体的な状況」と「現在、家庭での育児は可能な状態か」を丁寧にヒアリングしてください。その上で、「制度上は傷病手当金との併給も可能ですが、症状が重く育児ができないとみなされた場合は、育児休業そのものが終了扱いとなり、育休給付金が止まるリスクがあります」と事前にお伝えすることがトラブル防止の要となります。念のため、事前に管轄のハローワークへ状況を伝え、見解を確認しておくことを強くお勧めします。

 ② 出産手当金が絡むケース(育休中の第2子妊娠)
 このケースでは、実務上、従業員に以下の2つの選択肢を提示してあげるのが親切です。
  ●パターンA(基本対応):予定通り第2子の「産前休業」を会社に申請する。第1子の育休は終了し、出産手当金へスムーズに切り替わるため、会社側の手続きがシンプルです。
  ●パターンB(従業員有利):第2子の「産前休業」をあえて申請せず、第1子の「育休」を出産直前まで継続する。これにより、産前42日間に限って両方の給付金を受給できるため、従業員の手取りを最大化できます。

 法律上、産前休業は本人の請求によるため、会社がどちらかを強制することはできません。それぞれの給付金の支給率などを踏まえ、本人とよく話し合って方針を決定することが大切です。
 給付金の受給は、従業員の生活基盤に関わる非常にデリケートな問題です。イレギュラーな申し出があった際や、少しでも判断に迷われるケースが発生した場合は、決して社内で自己判断せず、お早めに当法人までご相談ください。

弊所よりひと言

10月1日に本年度の社会保険労務士試験の合格発表があり、弊所より職員1名が受験しておりまして、見事に合格致しました。おかげさまで、弊所では試験合格者が毎年増加しており、合計8名になりました。事務所のスタッフの知識、スキルを上げていき、顧客の皆様のニーズに応えられるよう、引き続き研鑽を積んでまいります。
 また、現在、Google口コミでの弊所に対する皆様のご意見や感想をお願いしておりますので、是非ご協力をお願い申し上げます。

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