10月号では「懲戒処分を実施したことはありますか。」という内容で、懲戒処分の必要性や懲戒処分を行うための準備と具体的な流れについてご紹介しました。今月号では引き続き具体的な懲戒処分としたケースについてご紹介します。
<事例>
A社員は、上司からの正当な業務指示に対し、「それは私の仕事ではありません」「効率の悪いやり方だ」などと反抗的な態度をとり、指示に従わないことが度々ある。他の社員の前で上司を非難することもあり、職場の雰囲気を著しく悪化させている。
<対応方法>
1. 注意・指導(記録を残す)
まずは個別に面談の場を設け、A社員の言い分を冷静に聞き取ります。その上で、なぜその業務指示が必要なのか、会社の業務命令には従う義務があることを丁寧に説明し、改善を促します。この際、「いつ、どのような指示を出し、A社員がどう応答・反抗したか」「面談で何を話し、指導したか」を具体的に記録(議事録作成)しておくことが極めて重要です。(余談ですが、最近では面談の内容を録音しておいて、AIにより議事録を作成することも簡単にできるようになっておりますので、利用してみてください。)
改善が見られない場合、改めて「業務命令書」として書面で指示を出すとともに、従わない場合は懲戒処分の対象となる旨を明記した「指導書」「警告書」を交付します。
2. 懲戒処分の検討
書面での明確な指示・警告後も態度を改めない場合、懲戒処分を具体的に検討します。
証拠の整理:これまでの面談記録、指導書・警告書の写し、業務命令書、指示に従わなかったことで生じた業務への支障に関する記録などをまとめます。
3. 弁明の機会の付与
A社員に対し、「再三の業務命令に対する違反行為(就業規則第〇条違反)について、懲戒処分を検討している。つきましては、弁明の機会を設けますので、〇月〇日までに弁明書を提出してください」といった内容の通知書を交付します。
4. 懲戒処分の決定・通知
A社員からの弁明(例えば、「指示内容が不合理だ」等の主張)を検討し、その主張に正当性がないと判断されれば、処分を決定します。
違反の頻度や業務への影響、反省の態度などを考慮し、まずは「譴責(けんせき)」(始末書を提出させ、将来を戒める処分)や「減給」を検討します。度重なる違反や、態様が悪質な場合は、「出勤停止」といった一段重い処分も視野に入れます。
決定後、「懲戒処分通知書」をA社員に交付します。
懲戒処分が法的に有効と認められるには、以下の2つの要件を満たす必要があります(労働契約法第15条)。
1. 客観的に合理的な理由があること:誰が見ても「それは罰せられても仕方ない」と思えるような、就業規則違反の事実があること。今回の例では、上司の業務命令が正当な範囲内のものであることが大前提です。
2. 社会通念上相当であること:違反行為の内容・程度に対して、処分の重さが釣り合っていること。(例:一度の軽い口答えで、いきなり出勤停止処分とすることは、重すぎて無効と判断される可能性が高いです)過去の同様の懲戒処分を行っていた場合は、処分の重さが釣り合っていることも必要です。
適切な手続きを踏まず、処分の重さを誤ると、懲戒処分は「無効」と判断され、逆に損害賠償を請求されるリスクもあります。
懲戒処分は、企業と従業員双方にとって、できれば避けたい事態です。しかし、一人の従業員の規律違反を放置することは、真面目に働く他の多くの従業員のモチベーションを下げ、職場全体の雰囲気を悪化させることになり、企業の秩序と従業員の働く環境を守るためには、避けては通れない場面もあります。いざという時に慌てないためにも、日頃から就業規則を整備し、問題行動に対しては初期段階で適切かつ毅然と注意・指導していくことが重要です。
従業員の労務管理や懲戒処分に関して、少しでもご不安な点がございましたら、いつでもお気軽に当事務所までご相談ください。
先日、あるクライアントから問題社員の相談がありました。今月号での事例のような業務指示に従わない、言い訳ばかりする、指導教育したらパワハラされたと騒ぐといった新入社員です。
新入社員の問題点をヒアリング中に必ずどのようにして採用したのか経緯を聞くことにしています。
この会社においても採用時に面接を30分から1時間程度しただけで採用を決めていました。このような中小企業がなんと多いことでしょう・・・。そんなときに私はいつも社長に以下のようにお伝えするようにしています。
「株に毎年400万円の投資をするなら、30分程度考えただけで決めますか。実際にしていることはそれと同じことをしているんです。採用する自由はありますが、解約する自由はないのです。採用する際は、投資対象として適切なのか十分に検討したうえで判断することが重要だと思います。」
そのうえで、面接は複数人で2回以上実施し、適性検査は必須であることをお伝えします。
人が足りないからととりあえず採用といったような場合は、採用することが目的となって十分な検討もされず、いわゆる問題となるような社員を採用し、困って相談に来られるというケースが非常に多いです。やはり、問題社員への対応は採用の段階から計画的かつ慎重な取組をして問題を抱えないようにすることが一番重要だと思います。
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