「これまで一度も懲戒処分をしたことがない」という中小企業は決して少なくありません。懲戒処分は、企業の秩序を維持するために必要な制度ですが、その一方で、手続きや処分の重さを誤ると、逆に会社が訴えられるリスクも孕んでいます。そのため、多くの企業では実施に慎重になり、問題行動を見て見ぬふりをしてしまうケースも見受けられます。(懲戒処分せずとも、指導教育の観点からの注意もされてない場合も見られます。)しかし、一人の従業員の規律違反を放置することは、真面目に働く他の多くの従業員のモチベーションを下げ、職場全体の雰囲気を悪化させる原因となりかねません。場合によっては、他の多くの退職につながるケースもあります。
企業の健全な発展のためには、ルールを明確にし、違反行為には毅然と対応する姿勢が不可欠です。そこで今回は、「懲戒処分」を適切に運用するための基本を解説します。
懲戒処分の必要性:懲戒処分は、単なる「罰」ではありません。その目的は大きく分けて2つあります。
1. 企業秩序の維持・回復:社内のルールを明確にし、違反行為に対して制裁を科すことで、企業の秩序を守ります。
2. 再発防止:本人に反省を促し、改善の機会を与えると同時に、他の従業員への戒めとし、同種の違反行為の再発を防ぎます。
懲戒処分を実施するケース:では、具体的にどのような場合に懲戒処分を検討するのでしょうか。これらは必ず「就業規則」に定めておく必要があります。
【懲戒事由の例】
• 経歴詐称:重要な経歴を偽って入社した。
• 無断欠勤:正当な理由なく、無断で欠勤を繰り返す。
• 職務怠慢:再三の注意・指導にもかかわらず、勤務態度が著しく不良である。
• 業務命令違反:正当な理由なく、上司の業務命令に従わない。
• ハラスメント行為:セクハラやパワハラなど、他の従業員の就業環境を害する行為を行った。
• 会社の備品・金銭の不正利用:業務以外の目的で会社のPCを使用したり、経費を不正に請求したりした。
• 情報漏洩:会社の機密情報や顧客情報を外部に漏らした。
【ポイント】就業規則に規定がなければ、懲戒処分はできません。 まずは自社の就業規則に、懲戒の種類と、どのような場合に懲戒処分となるのか(懲戒事由)が網羅的に定められているか、ご確認ください。
懲戒処分は、感情的に行うものではなく、客観的な事実に基づいて、慎重かつ公正な手続きに則って進める必要があります。
懲戒処分の前に必要な準備
1. 客観的な証拠の収集
○ 勤怠記録、業務日報、PCのログデータ
○ 指導・注意を行った際のメールや、面談の議事録(いつ、誰が、何を指導し、本人がどう回答したか)
○ 関係者(同僚や上司など)からのヒアリング記録
○ 被害者がいる場合は、その陳述書
○ その他不正の事実がわかる客観的な記録類
2. 就業規則の確認
○ 該当する懲戒事由が就業規則に記載されているか。
○ 予定している懲戒処分の種類が規定されているか。(譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等)
懲戒処分の基本的な工程(ステップ)
1. 事実関係の調査:上記の証拠収集を行い、当事者の言い分だけでなく、客観的な事実を固めます。
2. 弁明の機会の付与:本人に、懲戒処分の対象となっている事実を伝え、言い分を聞く機会を設けます。
これは非常に重要な手続きで、これを怠ると処分が無効と判断される可能性があります。
「弁明通知書」を交付し、指定日時までに書面または口頭で弁明するよう促します。
3. 懲戒処分の検討・決定:
○ 収集した証拠と本人の弁明内容を総合的に考慮します。
○ 処分の重さが妥当か(懲戒権の濫用にならないか)を慎重に検討します。
問題行動の内容・程度、本人の反省度合い、過去の処分歴などを考慮し、
最も軽い処分(譴責など)から段階的に検討するのが基本です。
4. 懲戒処分通知書の交付:処分が決定したら、本人に「懲戒処分通知書」を交付し、処分内容とその理由を明確に伝えます。
今月は懲戒処分の運用について解説いたしました。懲戒処分するには、事前に処分事由や処分の種類を就業規則で決めておきなさいということです。刑事罰におけるルールと考え方は同じです。来月のニュースでは、懲戒処分となる具体的なケースについてご紹介いたします。
本年も8月24日に社会保険労務士試験が実施されました。本年度は昨年より難易度があがり、合格率は5.5%でした。合格発表は10月1日で、思わぬ朗報が2つもありました。
1つは、約3年前まで弊所で勤めていたスタッフがその後も継続して勉強を続けていたようで、見事合格したとご連絡をいただきました。私が知る限り、8年くらいは勉強していたと思います。諦めたら終わり、諦めなければいつか合格できるということ体現してくれた嬉しいニュースです。
もう1つは、9月より2年ぶりに職場復帰しましたスタッフが合格していたと報告してくれました。昔勉強していたのは知っておりましたが、まさか今年勉強を始めて試験を受けていることを知らなかったので、ビックリでした。当該スタッフも試験直前は毎日9時間くらい勉強していたようで、これまでの努力が実ったようです。これから、経験を積んで益々活躍してもらえることを期待したいです。まずは、近々合格祝賀会を事務所で実施したいと思います。
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