ハラスメント対策は、もはや義務です。しかし、法律で定義されるような明確なハラスメント事案だけでなく、「無視」「口調がきつい」「ため息をつく」といった、一見すると些細な行為が、職場の雰囲気を蝕み、働く人々のモチベーションを下げているのが現実です。
本号では、法律上のパワハラの定義を再確認しつつ、「ハラスメントかどうか微妙な事案」にどう向き合い、健全な職場環境を築いていくべきか、具体的な対処法をお伝えします。
パワハラとは、「優越的な関係を背景とした言動」であって、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「労働者の就業環境が害される」ものを指します。一口にパワハラと言っても、その態様は様々です。厚生労働省が示す代表的な6つの類型に分けて、具体的な事例を見てみましょう。
• 精神的な攻撃: 営業会議中、上司が部下に対し「お前は本当に頭が悪いな」
「こんなこともできないなら、会社を辞めてしまえ」と大声で罵倒する。
• 人間関係からの切り離し: 部署内で特定の社員だけ会議に呼ばない、業務連絡の共有から外す。
• 過大な要求: 経験の浅い社員に、到底一人では達成できないような膨大なノルマを課し、達成できないと厳しく叱責する。
• 過小な要求: 部下に対し「君にはもう任せる仕事がない」と言い、誰でもできるような単純作業や雑用ばかりをさせる。
• 個の侵害: 休暇中の社員にプライベートな用事で頻繁に連絡を入れる。
明確なパワハラに該当しない行為でも、放置すれば職場の人間関係を悪化させ、やがて本格的なハラスメントに発展するリスクがあります。ここでは、その「グレーゾーン」行為に対する対処法を考えます。
1. 無視・口調がきつい・ため息をつく
• 上司に質問しても、一言も返事がなく、まるでそこにいないかのように扱われる。
• 同僚が話しかけても「あー」「はいはい」と、うんざりした態度で返事をする。
• 部下が報告に来ると、わざとらしく大きなため息をつく。
これらの行為は、一つひとつは「ハラスメント」と断定しにくいかもしれません。しかし、これらが繰り返されると、受けた側は「自分はここにいてもいいのだろうか」と不安になり、委縮してしまいます。
【対処法】
■ 「職場の雰囲気」として捉える: 個別の行為を問題視するのではなく、「チームとして風通しの悪い状態になっている」という全体像で捉え、マネジメントの問題として対応します。
■ マネージャー研修の強化: 従業員の「感情」にも配慮したコミュニケーションの重要性を伝え、指導スキルだけでなく、傾聴力や共感力を養う研修を実施します。
■ 360度評価の導入: 上司が部下や同僚からどう見られているかを客観的に知る機会を提供し、自身の言動を振り返ってもらいます。
2. 育成指導の名を借りた一方的なコミュニケーション
• 「お前のせいでチームの進捗が遅れている」と、常に特定の社員を犯人扱いにする。
• 指導中、相手の意見を一切聞かず、一方的に持論を展開し続ける。
• 指導の場が、いつも怒鳴り声や厳しい口調で行われる。
これは、指導と称していても、受け手は「人格否定」と受け取ることが多く、ハラスメントの一歩手前と言えます。
【対処法】
■ 「指導」の定義を明確にする: 「指導」とは、部下の成長を促すための建設的なフィードバックであることを周知します。「人格否定」や「感情的な叱責」は指導ではないことを、全社員で共有しましょう。
■ 対話のルールを設ける: 1on1ミーティングの際は、「まず相手の意見を聞く」「否定から入らない」「改善点を具体的に示す」など、対話のルールを設定します。
■ 専門家による個別指導: 指導が苦手な管理職に対しては、社外の専門家(社会保険労務士など)を交えた個別相談の機会を設けます。
1. 相談窓口の役割を見直す 相談窓口は、ハラスメント事案だけでなく、「人間関係がうまくいかない」「このままだと辞めてしまいそう」といった「ちょっとした悩み」も受け止められるように、その役割を広げましょう。
2. コミュニケーションを促進する仕掛けを 部署横断のチームビルディングイベントや、オンラインでの雑談スペースの設置など、従業員同士が気軽に話せる機会を意図的に作ります。
3. マネジメント層の意識改革 トップが「ハラスメント未満の事案も、職場の風土を悪化させる問題である」と認識し、管理職にその重要性を繰り返し伝えることが不可欠です。
ハラスメント対策は、単に「法を守る」だけでなく、健全な組織文化を育むための投資です。明確なハラスメント事案だけでなく、その一歩手前にあるグレーゾーンの行為にも目を向け、早期に芽を摘むことが、従業員が安心して働ける職場をつくります。
弊所では、実態に合わせた具体的なハラスメント対策や研修も承っております。お気軽にご相談ください。
最近の弊所が取扱う労務相談の種類において一番多いのが「パワハラ」に関する相談です。パワハラかどうかの微妙な事案が多いうえ、そもそも客観的な証拠がないことが多いです。また、発言している本人はパワハラをしている認識はないうえ、研修なども受けていない方が圧倒的です。そこには、「私がパワハラなんかするわけない。」という驕りのようなものを感じます。
経営者自身がハラスメント対策に積極的な会社はまだまだ少ないように感じます。職員のモチベーション、働きやすいさなどに直接影響する問題ですので、人事戦略の一環として考えていく必要があるのではないかと思います。
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