事務所便り

令和7年8月号

社会保険の適用拡大など年金制度改正法が国会にて成立

 年金制度改正法(正式名称:社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)が2025年の通常国会で成立し、公布されました。改正法では、社会保障制度全般に関わる多くの改正点がありますが、その中でも中小企業において最も影響のある社会保険の適用拡大について、その概要を確認しておきます。

■ 賃金要件の撤廃

現在、従業員数(※厚生年金保険被保険者数)が51人以上の企業では、以下の3つの要件をすべて満たしたパートタイマー等が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に「短時間労働者」として加入することになっています。
   ① 週所定労働時間が20時間以上であること
   ② 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
   ③ 学生でないこと

 これらの要件のうち、②の要件はいわゆる「年収106万円の壁」といわれる賃金要件ですが、時給1,016円以上で、週20時間働くと賃金要件(年額換算で約106万円)を満たすことになります。
 そのため、全国の最低賃金が1,016円以上となることが見極められた上で、②の要件が撤廃されることになりました。施行日は、公布から3年以内の日で今後決定されます。

■ 企業規模要件の撤廃

 現在、従業員数(※厚生年金保険被保険者数)が50人以下の場合には、1 週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上である場合に社会保険の被保険者となりますが、今後は「短時間労働者」として加入する企業規模の基準が下のとおり、約10年をかけて順次拡大され、最終的には企業規模要件は撤廃されます。    

                             
    企業規模ごとの施行時期  51人以上   2024年10月施行済
                 36人以上   2027年10月
                 21人以上   2029年10月
                 11人以上   2032年10月
                 10人以下   2035年10月

■ 個人事業所の適用業種の拡大

 法人の事業所は従業員数や業種に関わらず、社会保険の適用事業所となります。これに対して、個人の事業所は、常時5人以上の従業員を雇用する場合であって、法律で定める17 業種に該当した場合に、社会保険の適用事業所となります。
 2029年10月からは、この業種に係る要件が撤廃され、今まで適用事業所とはならなかった業種においても、常時5人以上の従業員を雇用する場合には適用事業所となることとなりました。なお、2029年9月までに適用対象外となっている事業所は当面適用が除外されることも決まっています。

重要度が増す仕事と育児・介護の両立に関する個別周知等

 2025年施行の改正育児・介護休業法では、仕事と育児・介護について、従業員に対する個別周知等の強化が行われました。そこで、既存の個別周知等の内容も含め、確認します。

■ 育児の個別周知・意向確認

 従業員から、本人または配偶者の妊娠・出産等の申出があったときには、育児休業制度について個別に周知をし、取得に係る意向確認をする必要があります。
 これに加え、2025年10月1日以降は、会社が選択した柔軟な働き方を実現するための措置について、従業員に個別に周知し、制度利用に関する意向確認をすることが義務になります。
 新たに義務化される個別周知・意向確認は、子どもが3歳になるまでの適切な時期(従業員の子どもが1歳11ヶ月に達する日の翌々日から2 歳11ヶ月に達する日の翌日までの1年間)に、面談や書面交付等により行うこととなっています。

■ 育児の意向聴取と配慮

 2025年10月1日以降は、個別周知・意向確認のみでなく、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と、聴取した意向に対する配慮も義務となります。
 具体的には、従業員から、本人または配偶者の妊娠・出産等の申出があったときと、子どもが3 歳になるまでの適切な時期に、子どもや各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立に関する勤務時間帯や勤務地、両立支援制度等の利用期間、労働条件の見直し等について、個別にその意向を聴取することが必要です。その上で、聴取意向について、自社の状況に応じて配慮することが求められます。
 なお、聴取した意向への配慮は、意向の内容を踏まえた検討を行うことが必要ですが、その結果、何らかの措置を行うか否かは会社が自社の状況に応じて決定することになります。必ずしも意向どおりとしなければならないということではない点を押さえておきましょう。

■ 介護の個別周知等と情報提供

 個別周知・意向確認は、育児のみでなく、介護に直面した旨の申出をした従業員に対しても行うことが義務化されています。それは、介護休業制度等に関する事項を個別に周知し、介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を行うというものです。さらには、介護に直面する前の早い段階(40歳等)に介護休業および介護両立支援制度等に関する情報提供を行うことも義務化されています。
 個別周知・意向確認、意向聴取および情報提供を行う際に利用できる書式については、厚生労働省のホームページに記載例が公開されています。自社に合わせたアレンジも可能ですので、記載例を参考に対応するとよいでしょう。

弊所よりひと言

 令和7年10月より、出産等が予定されている労働者や、配偶者が出産を予定している労働者に対して、育児休業や各制度を周知し、その労働者の意向確認をすることが義務化されます。また、意向聴取して働く場所や働き方についての配慮も求められることになります。これまでは制度構築のみしていれば、労働者が育休や他の制度の内容を知らなくても、制度について尋ねてきた従業員に対して対応していればよかったのですが、法改正後は、労務担当者自身が、対象者をピックアップして適切な時期に意向確認や周知をしていく必要があります。零細企業において負担となる業務になりますが、自社の労働者に対して積極的に制度周知や意向確認を行うことがES(従業員満足度)につながりますので、適切に運用できるような体制を構築してください。なお、顧問先様に限りオプションサービスがございますので、自社で運用できない場合はご検討ください。

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